間違いなく書状に押されているのは王女エレナの印形であった

 間違いなく書状に押されているのは王女エレナの印形であった。そして、それは普通に考えてセイリュウ風情がどうこう細工する事等出来るはずのないものであった。「王女様が、何故この俺を。」ドルバスには全く思い当たる節も無い。それどころか、つい昨日も共に食卓を囲んだばかりなのである。「私は命令されただけなのだ。理由は解らぬ。」セイリュウは静かにそう言った。「俺を捕らえてどうしようと言うのじゃ。」「私は何も知らぬ。ただ王女殿下から貴殿を逮捕するよう命ぜられただけなのだ。」「・・・・・・。」ドルバスは信じ難いという風に再度軍令書に目をやった。international school groups しかし、そこに有るのは紛う方なき王女エレナの印形であった。「逆にこの私も何故王女殿下が私などに有ろう事かドルバス殿の逮捕を命ぜられたのか、今もって信じられぬ思いなのだ。しかし、この命令は王女殿下から直々に受けたものである故、致し方ないのだ。」とセイリュウはドルバスに同情するような顔付きをした。それから続けて言う事には、「あの聡明にして思いやり深き王女殿下の為される事だ。何か深い仔細が有るのでは無かろうか。そして又、大功有る貴殿を処罰するとも思われない。」であった。「きっと悪い様には為さらぬに違いない。此処は一つ大人しく捕われてはもらえぬだろうか。」とかき口説いた。何たるペテン。為せば成る為さねば成らぬ何事も。思うにこのセイリュウ、此処が我が身の切所、伸るか反るかの正念場と思い定めていたのであろう。天をも欺く役者振りであった。 馬鹿とは言わないが、どちらかと言えば愚直。悪謀にはさほど長けていないドルバスはこのセイリュウの演技に手もなく嵌まってしまった。「仕方有るまい。捕らえるが良かろう。」ドルバスは納得いかないながら、覚悟を決めた様子である。「御存じかも知れないが、王宮の地下に小さな牢獄がある。貴殿には一時そこに入ってもらう事になっている。」とセイリュウが言うと、ドルバスは黙って頷いた。「役儀により武器を御預かり申す。」こうして、ドルバスはセイリュウの一派に捕われの身となってしまった。まず第一段は上手く行ったようですね。」 遥かに配下の兵士達に取り囲まれて去って行くドルバスを見送るセイリュウの背後から一人の女官が声を掛けた。顔はベールで隠しているが、その声は先般セイリュウを唆していたのと同じものである。セイリュウはそれには答えず、厳しい顔を正面に向けていた。「二人とも上手くやっているようですね。重畳、重畳。」そこへ又別の人物が声を掛けた。初老の小男であった。「フーシエ、こんな所に顔を出して大丈夫か。」セイリュウが驚き慌てた様子で小男に小声で言った。「私の顔など誰も知りやしませんよ。それより、次はハンベエです。そうして、邪魔者が居なくなったら、今度こそ王女を。ふふふ、いいですね。」何とセイリュウと女官の裏ではあの太后モスカの執事をしていたフーシエが糸を引いていたのだ。「フーシエ、事成就の暁にはあのお方は間違いなく我々を受け入れて、それなりの処遇をしてくれるのだろうな。」不意に現れたフーシエに対し、セイリュウは少し蒼褪めた顔色で言った。セイリュウの言い様は、フーシエの更に後ろに黒幕がいるような口振りである。「大丈夫ですよ。私の主人であったモスカ様が消えた今、あの方にとって一番の邪魔者は王女エレナ様。しかも、ハンベエやドルバスまで一緒に片付けたとなれば、大殊勲です。悪くされるはずも無い。「真だな。」セイリュウはしつこく念押しをする。「間違いありませんよ。それよりも失敗らないで下さいよ。私もルキドという者を使ってエレナ様の命を狙わせたが、案の定失敗ってしまった。血も涙もない使える男だと買っていたが、王女は意外にしぶとい運の強さがあるようですから。」

Published
Categorized as Journal