ロキの言葉にハンベエが反応した

ロキの言葉にハンベエが反応した。「うん、多分今日辺り見せられるよお。」「姫君、かくの如く我が方の態勢は万全、ステルポイジャン達が軍を派遣しても必ず撃ち破ります。先ずはご安心を。」モルフィネスがエレナに恭しく一礼して言った。はい、安心して皆さんにお任せしておりますわ。・・・・・・でも、フィルハンドラ王子の軍は何故攻めて来ないのでしょう?」「東方のボルマンスクとの間で小競り合いを繰り返しているようです。」モルフィネス──群狼隊ゲッソリナ支部からの情報のようだ。そう言って一区切り間をおいてから、エレナの問いに答えようと続けた。「テッフネールによる周大福教育 學校 ハンベエ暗殺に期待を寄せているのでしょう。逆にテッフネールを寄越した為、下手に軍を動かせなくなっていると思われます。過去の話を調べた結果、あの人物かなりのヘンコツ者で、機嫌を損じたら逆にステルポイジャンの方に牙を向く事も有りそうな気もしますからな。」モルフィネスの話にエレナは肯いた。肯いた後、少し考えてから言った。「あの・・・・・・。浅はかな考えかも知れませんが、テッフネールという人、味方にはできないものでしょうか?」全員の注目がエレナに集まった。 ハンベエは無言でエレナの方を見ていた。「それができれば、それに越した事は有りませんが、千に一つの目も無いでしょう。」遠慮がちにモルフィネスが言った。エレナはハンベエの方を見た。ハンベエは一度目を閉じ、困惑の表情で口を開いた。滅多にない王女の提案で、やってみるだけの値打ちのある策だとも思いはするが、そればかりは・・・・・・」歯切れの悪いハンベエの物言いであった。「ハンベエさんも、やはり無理だと? 私の見るところ、全く話の分からない人とも思えませんでしたが。」「王女は、俺の身を案じてそういう事を考えてくれたんだろうが、・・・・・・奴は我が師フデンの名を聞いた途端、狂ったように斬り付けて来た。どうも、ステルポイジャンの部下としてとかと言うより、我が師フデンそしてその弟子の俺の事を生かして置けないと思っている節がある。説得はまず無理だと考えてもらいたい。」「そうですか。」ハンベエの言葉にエレナは悄然と肩を落とした。「待て、ハンベエ。今フデンと言ったな。フデンとは、あの伝説の武将フデンか?」意外な反応をしたのは、エレナとロキを除く三人であった。モルフィネス、ドルバス、ヘルデンは驚きの目をもってハンベエを見た。日頃、冷然たる表情を崩さないモルフィネスでさえハンベエを見る目が違っていた。ハンベエがフデンの弟子であるという話は、テッフネールとの闘いの中、二人の会話にも出ていたのだが、その場にいたはずのドルバスまで初めて知った顔であった。勝負の帰趨に心を奪われるあまり、聞き落としていたようである。「それにしても、姫もロキもフデン将軍の弟子と聞いて驚かないとは。」「いや、知ってたから。」とロキ。「ひでえや、大将。そんな事は教えといて下さいや。」「何か違うところがある奴とは思っとったが、フデン将軍の弟子であったとはのう。」今度はハンベエが驚く番だった。師のフデンの名を出しただけで皆がこれ程騒ごうとは、改めて師の評判の高さを知った思いだった。「しかし、ステルポイジャンの配下のガストランタという男もフデン将軍の弟子を名乗り、将軍愛用の『ヘイアンジウ・マサトラ』を帯佩していたはずだが。」「ガストランタという奴は騙りだ。『ヘイアンジョウ・マサトラ』は盗まれたものさ。」ハンベエはウンザリした顔で言った。それから、続けて言った。「師のフデンが世評に名高い人物という事は知っているが、師は師、俺はただのハンベエだ。」「確かに、しかし、ただのハンベエも中々の男だ。」『ハンベエの敵』と称して憚らないモルフィネスが何故かハンベエを持ち上げるような事を言い、その一方でエレナに向かって次のように述べた。「姫、ハンベエが言ったようにフデン将軍に絡んでの話であるなら、テッフネールの説得は無理と言う事になります。考えてみれば、フデン将軍が戦場を去ったのが十年の昔、テッフネールが突然消息を絶ったのがその直後、丁度平仄が合います。」「どういう意味ですか?」「恐らく、テッフネールは己こそ天下一の武人と考えているはず、ハンベエを倒してそれを証明する事は考えても、味方になろうとは思わないでしょう。」

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