ことを知っても、依織は何とも思わないだろう

ことを知っても、依織は何とも思わないだろう。それでも、本当のことを言えなかった。「蘭、もしかして久我さんとかなり親しかったりする?」「は?まさか!そんなわけないでしょ」「でも、私よりも蘭の方が、久我さんのことよく知ってるんじゃないかな」「知ってるわけないでしょ。ていうか、あの人何考えてるかわからないから一緒に飲んでてもイラつくのよ」彼には、私ばかり本音を吐き出してしまっている。だから、遊艇 買賣 に知らないのだ。あの人が、どれくらい依織のことを想っているのか。もちろんあの人の私生活なんて、まるで知らない。「何考えてるかわからないなら、久我さんって蘭のタイプなんじゃない?」「待って、何であの人が私のタイプなのよ」「だって蘭、前に言ってなかった?ミステリアスで何考えてるかわからないような人がタイプだって」「……そんなこと、言ったっけ」自分で言ったことのはずなのに、全く覚えていない。きっと話の流れで好きな男のタイプを言うことになってしまい、適当に口にしてしまったのだろう。ミステリアスな雰囲気の男なんて、論外だ。そもそも、男を好きになったことがないのに、好きな男のタイプなんて言えるはずがない。私が好きなのは、ただ一人。もうずっと前から、依織だけなんだよ。「……いっそのこと、あの人が私のタイプの男なら楽だったんだけどな」「え?」「何でもない。やっぱ風呂上がりのマッサージは最高だね」こうして私はまた、嘘を重ねていくのだ。一番好きな人に、本当のことを言えない。想いは募る一方なのに、本当の自分を見せることが出来ない。この苦しみは、きっと誰にもわからないだろう。その日の夜は、皆で一つの部屋に集まり、お酒を飲みながら下らない話で笑い合った。気心知れた友人との時間は、日頃のストレスを忘れさせてくれる。隣には、大好きな依織もいる。それだけで、本当は十分幸せなことなのだ。冷静なときはそんな風に考えられる余裕があるけれど、私はいつも簡単に余裕を失ってしまう。
お酒を飲み始めて少し時間が経った頃、甲斐が依織を強引に連れ出し部屋から出て行った。そのときの依織の表情を見て、私はようやく依織の体調が優れない様子だったことに気付いたのだ。「依織……大丈夫かな」「あぁ、食べ過ぎたって言ってたもんな。もしかして、それで具合悪くなって出て行ったとか?」「ちょっと、私も行ってくる」誰よりも早く気付いてあげるべきだった。甲斐一人に任せていられないと思い立ち上がろうとしたけれど、美加ちゃんに腕を掴まれてしまった。「蘭さん、二人の邪魔しちゃダメですよ!」「え……」「依織さんなら、甲斐くんが介抱してくれるから大丈夫ですよ。それに、あの二人今日良い感じなんですから、二人っきりにさせてあげましょ」「……そっか、私、邪魔者か」それは、誰の目から見ても明らかなことだった。甲斐は、誰よりも早く依織の体調不良に気付いた。そして、躊躇うことなく依織のために行動した。反対に私は、ただ皆で過ごす時間を楽しんでいただけで、自分のことしか考えていなかった。依織が甲斐に惹かれるのは、当然のことなのだ。「甲斐くん、今頃好きだって告白してるんじゃないかなぁ」「……かもね」きっと甲斐は、このタイミングで依織に好きだなんて言わない。依織が弱っているときに自分の気持ちを優先して告白してしまうような男ではないからだ。「いや、でもさ、甲斐って七瀬のこと好きなのかな」そこで、青柳が的外れな疑問を口にした。相変わらず他人の恋模様に関して鈍い男だ。私は呆れながら言葉を返した。「青柳、あんたそれ本気で言ってんの?」「だって甲斐、元カノと最近連絡取ってるだろ。この間も二人で飲んでたときに、元カノから連絡きてたし」甲斐の元カノの高橋真白。

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